「誰が勝ってもおかしくない。見ている方は楽しいだろうなと思う」。北京五輪最終選考会となる名古屋に集まったメンバーについて問われ、高橋はまるで人ごとのようにこう語った。だが、同時に「優勝しないと(代表に)選ばれない」と話し、「ここまで来たら誰が相手とかでなく、自分を見失わずに走りたい」と決意を口にした。
名古屋には、アテネ五輪7位の坂本直子(天満屋)をはじめ、ベテランの弘山晴美(資生堂)、昨夏の世界選手権6位の嶋原清子(セカンドウィンドAC)らが参戦。2時間25分を切る選手も7人を数える。そのライバルたちの多くが中国・昆明にいた。練習拠点の米ボルダーがこの時期、降雪で走れないため、先月末まで2カ月間、初めて昆明で合宿を敢行した高橋は、そこで「本当に多くの選手とすれ違い、毎日が試合会場のようで驚いた」という。
1日最長で70キロ。標高1900メートルの昆明から、3200メートルの麗江へも上がり、「自分の体の声を聞き、その日できる最大限の練習をしてきた」と高橋。もちろんライバルたちも力を蓄えており、まさに「誰が勝ってもおかしくない」状況だ。
アテネ五輪後、ひざ痛、左足甲の骨折、そして右くるぶし、と故障を繰り返した坂本も、この1カ月は「この4年間で一番練習できた」という。昆明では約900キロを走り込み、「追い込める感覚が戻ってきた」と手応えも感じている。
アテネ五輪代表から漏れた高橋に対し、アテネで7位入賞を果たした坂本。だが「力を出し切れなかった」との思いが残る。そしてその「悔しさ」が原動力だった。坂本は「高橋さんだけじゃなく、全員がライバル。五輪に出たい。もう一度走りたいという一心でやってきた」。アテネでともに戦った土佐礼子(三井住友海上)、野口みずき(シスメックス)はすでに選考レースで好走を演じた。「私もと思う」
過去2戦2勝の名古屋は「イメージもゲンもいい」と話す高橋もまた“苦い思い”の払拭(ふっしょく)を期す。「名古屋の結果次第で、オセロゲームのように真っ白にすることができる」と語る瞳に光が宿った。
(3月7日配信 産経新聞)
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