大麻取締法違反の罪に問われ、10月末に懲役8月、執行猶予3年の有罪判決を受けた作家、嶽本野(たけもとの)ばらが12月半ば、『幻想小品集』(角川書店)を出版する。「耽美(たんび)なもの」として睡眠薬やドラッグに類するものがモチーフに頻出する短編集はいずれも逮捕以前に執筆したもので、うち1編は逮捕前日の書き下ろしという。今回の作品と大麻所持事件について、嶽本に聞いた。
「幻想」をテーマにした7篇からなる今回の小品集は、どうしても大麻所持事件を連想させる。嶽本も「事件を知って読んだ方には誤解を招くかもしれません」と話す。
公判では「大麻の効き目が残ったままで執筆したことは」と問われ、明確に否定していた。改めて聞くと、「大麻を使っては書けません。ぼんやりした状態で、幾何学的な物語を構築できない。試してみましたが、頭痛が激しくて無理です」。
ただ、作家の体験が作品に落とし込まれるのだから、作品は大麻の影響下にあったという批判も成り立つ。「あえて否定はしませんが、一歩踏み込んでくれるなら、過去の作品も読んでほしい。大麻の影響ではなく、もともとぶっ飛んでいたと分かってもらえる」
なぜ、大麻に走ったのか。「太宰治、ジャン・コクトー、シド・ヴィシャス…。自分の好きなアーティストがドラッグを使っていたというところでの関心、興味はずっとあった」と明かす。
また、こうも話した。「読者のために、自分のために、職業作家として…。何のために書くかということが、どこかで混乱した。評価やイメージが先行するなかで、何のために書いているのか、という虚無感が頭をもたげてきたところに、大麻を入手してしまったのかもしれません」
9月2日午後、東京・新宿の歌舞伎町で、大麻樹脂と乾燥大麻を所持していたとして現行犯逮捕された嶽本。1カ月ほどの留置場生活で、「引退」を何度も考えたそうだ。「大麻やドラッグをやるのはダメな人間だと分かってもらうためには、引退しかない」と。
「逮捕されて一番怖かったのは『野ばらがやっているんだから私もやってみよう。しかもすぐに復帰したし』とファンに思われること。それは僕の責任だし、それに対して、どう責任を取れるのかと考えるといたたまれなくなった」
(12月1日配信 産経新聞)
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